大学の会計について

大学の会計について

こんにちは、きっかわです。この記事では現役私立大学職員が、大学の会計についてお話しします。

私立大学職員向けになります。国立大学職員の方は別の機会に説明します。

なお、私は大学の財務部門の経験がなく、簿記2級レベルの知識のみです。大学の事情を含めた細かな説明は不得手ですが、資金の流れについては一通り理解していますので、現職の大学職員の方は、すべて鵜呑みせず、「そんな考え方もあるのか」と思っていただければ幸いです。

企業会計における財務三表は「損益計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「キャッシュフロー計算書(CF)」です。それぞれ「一定期間の収入と支出を明らかにするため」「1時点での経営状況を明らかにするため」「資金の流れと現金の残高を一致させるため」に、繋がりを持った財務諸表として日本全国共通で基準を作り、他社との比較もできるよう制度設計がされています。上場企業は開示が義務となっており、これにより出資者をはじめとしたすべての人が、企業情報にアクセスすることができるようになっています。

学校法人にも同じ考えがあります。1960年代くらいまでは、各私立大学がそれぞれの基準で財務諸表を作成していました。1970年に私立大学等経常費補助金という国の制度ができて、1971年に学校法人会計基準が制定されています。

学校法人会計における財務三表は「事業活動収支計算書(PL)」「貸借対照表(BS)」「資金収支計算書(CF)」です。役割は企業会計とほぼ同じです。「ほぼ」と書いたのは、大学は公益追及の要素が強いため、企業とは存在理由が違うからです。

学校法人会計を理解しようとすると、専門用語と数字のオンパレードなので、文系出身が多い大学出身の事務職員は、職場から資料配布があっても、興味を示さずスルー、という人も多いようです。先輩や上司に聞いても、彼らが理解していないため、曖昧な答えしか返ってこない…という経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

大丈夫です。すべてを押さえる必要はなく、勘所のみ押さえれば「こいつ、わかってるな」と周囲が評価してくれます。以下にその勘所をお知らせします。

〇事業活動収支計算書

・収入の構成はどうなっているか-「教育活動収入計」に占める「学生生徒納付金収入」の割合が何%か。割合が90%を超えていると、入学している学生が確保できない事情になったとき赤字が続きます。

・事業活動支出の「人件費」「教育研究経費」の足した額が、学生生徒納付金収入をどの程度オーバーしているか。150%とかまで来ると、危険信号です。人が多すぎるか、研究にお金をかけすぎです(大体は人を雇いすぎているケースが多いです)

・「教育活動外収支」は資産運用や預金の利息受け取り、借入金の利払いで上下します。大規模な大学で不動産を貸したりしている法人は注視すべきですが、多くの法人はあまり気にしなくていい項目です。

・「特別収支」は、災害事故による建物の消失損失や、不動産売却収入を計上したときに記載される項目です。特に特別収入が多くなっている場合、現金が必要だったか、もしくはPLを黒字に見せたいために対応策をとったことを勘ぐる必要があります。「特別」なのでこの年度限りの収入です。永続的な法人経営を目指す学校法人なのに、目的と行動が一致していません。

〇貸借対照表

・現金化できる資産がどの程度あるか-基本金という制度があるため、バランスシートは不自然なバランスをしています。学校法人はキャンパスが必要なため固定資産が多すぎる貸借対照表は資金繰りが悪いと勘ぐる必要があります。流動資産(現金や株など)が多いかどうかをチェックしましょう。5年分くらいを見て、流動資産が減少しているかどうか、法人イベント(学部新設など)に合わせて上下しているだけなのか、材料をそろえて自分で検討してみましょう。そしてわからないところは財務部門にどんどん聞きましょう。ご自身の法人にとって不都合な真実が見つかるかも…?そうでないことを願います。

・定員割れが続き、本当に切羽詰まっている感じがしている学校法人にお勤めの方は、竜総資産の細目に「現金預金」という項目があるので、その額がPLの「人件費支出」と比べてみましょう。要は職員の給料を向こう何年分現金で払えるか、ということを自分で調べるのです。万が一法人が解散となったときも含めて、逆算して次の職を探すまでの時間猶予がどれだけあるのか(給料をもらいながら転職活動できるか)を把握しておくことは、人生戦略として不義理なことではありません。自分の頭で考えて行動していきましょう。

〇資金収支計算書

支出の部の「翌年度繰越支払資金」が、前年度と比べて増加しているかをチェックしましょう。見比べるところは同じ年度の収入の部「前年度繰越支払資金」の項目です。こちらも現金の動きを見極めることができる貴重な資料なので、5年分くらい見ておくと、流れがわかると思います。

いかがでしょうか。財務諸表を(一部でも)理解しておくことは、自身のスキルアップにつながると同時に、法人が経営するにあたり危険信号を事前察知することができます。ぜひ、日々の業務に役立てていただければと思います。また就職活動で学校法人を検討している方は、学生数やネームバリューのみにこだわらず、財務諸表から法人を分析する切り口ももっていただければ幸いです。

まとめ

・学校法人には「学校法人会計基準」というものがあり、それに基づき財務諸表が作成されている

・PL、BS、CFを押さえることが大事なのは、企業会計と同じ

・財務諸表を理解することは、学校法人の経営方針戦略を攻略するためとともに、自分のために有効

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