こんにちは、きっかわです。この記事では現役大学職員が、産学連携について説明します。
本日の日経新聞で国内の産学連携が思うように進んでいない、という記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60612970R20C20A6NN1000/
出典:日本経済新聞
大学の特許収入が伸び悩んでいる、企業が大学への投資を渋っている、という内容です。「大学は知的財産の扱いに疎く、企業の目利き力も育っていない」という記載があり、大学職員としては耳が痛い限りです。
これは事実で、理系の研究者がいなければ、企業との共同研究はほとんどないと思われます。5,000人未満の中小規模の大学では、年間30件もあれば良い方ではないでしょうか。特許取得はそのまた先の話で、実用化に向けて進まないこともあります。
大学は、社会を発展させるために、研究を促進していく立場でなければならないと考えます。一方で、中小規模の大学では収入源が学部生からの学納金です。そのため経営スタンスとして、どうしても入学生確保の方向にギアが入ります。当然、予算も入試広報部門に対して手厚くなります。
研究支援の部門については予算は最低限、という大学が多いと感じます。これは実際に研究するための予算ではなく、研究支援事務に関わる予算、という意味です。大っぴらにはなりませんが、「去年と同じ予算でいいよね」「新しい事やらないよね、やらないでね」「うちの大学で著名な研究なんてできないんだから」「研究は教員に任せておけばいい」「少子化なんだから学生確保が喫緊の課題でしょ」という内部の声に悩む事務職員が多いのではないでしょうか。私も経験者なので、わかります。
産学連携の促進について、事務職員が主導するには多くのパワーが必要です。所属する教員の研究が社会にニーズがあるか。教員は研究を進める気があるか。興味がある企業はどう探せばいいか…など、営業の新規開拓のような知見が必要になります。途中で挫折する職員、大学が多い印象です。
ではどういう方法があるかというと、本庶先生のように有能な研究者が、研究者自身のツテで企業をスポンサーにつけて、研究を進めるという方法がメジャーです。
京都大学の本庶佑特別教授、すばらしい研究業績です。本庶先生の報酬に対する不満表明も、ごもっともです。でも大学職員の立場からすると、教員に研究費をつけるための予算が確保できないのです。研究費の原資は学納金がメインなためです。
企業の力はすごいなと感じるのですが、大学では研究者に百万円単位で予算を計上するのも大変なのに、1,000万円ポンと契約を結んでくれる企業があったりします。研究に価値がある、と考えているのでしょうが、大学で出来ないことを企業にサポートしてもらっている点はありがたいし、もっとこの相乗効果の輪が広がって行けばいいのになと思っています。
1,000万円ポンと出してくれる企業の見返りは、権利を得ることです。本庶先生の例でいえば、本庶先生の研究費を小野薬品が出資し、見返りとして製薬の権利を得ていたのでしょう。「契約と異なる」と双方が述べている点が別記事で有りましたが、ここについては本記事では論じません。
産学連携が進まない理由は、「大学経営側が研究への出資を渋る」「企業側がスポンサーとしての権利を大きくしすぎ」「研究者側が企業の出資に頼らざるを得ず、収支への意識が低い=個人として少し儲かれば、好きに研究させてくれるしOK」というプレーヤーそれぞれの思惑が重なり合っているからだと考えています。ある種、「今のままで誰も困っていない」というジレンマな状態です。
政府もこの現状を把握しており、税額控除などの施策を講じています。
特別試験研究費税額控除制度ガイドラインについて
https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax-guideline.html
出典:経済産業省
ただ効果は不十分で、大学の経営に国が関与するわけにもいかず、こちらもジレンマが生じています。
大学職員として出来ることは、多くの研究シーズを公開する、スポンサー候補の要請には丁重に応じつつ、権利や収入の関係についてはシビアに交渉する、大学独自の産学連携促進制度を構築する、などの手だてがあるかなと考えています。
いかんせん、ベテラン職員の中で研究支援の領域に不得手な人が多く、経営の考え方をシフトチェンジさせる役割が期待されているのだな、と思いながら日々私も働いています。良い事例があれば、紹介していきたいと思います。
まとめ
・企業と大学との産学連携は問題点がたくさん
・大学予算が研究に多く当てられない経営上の問題もある
・どのプレーヤーもジレンマに陥っている。事務職員は大学の利益を考えて各プレーヤーと交渉していく必要がある